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知立市O邸

 

設計のポイント

「吹抜けの壁を赤く塗りたいんだ」初めて施主にお会いしたときに聞いた言葉だ。
太陽熱給湯システムで得たお湯を、入浴や炊事だけでなく床暖房にも利用するという、「ハイブリット・ソーラー・システム」を開発した会社社長の家は、自然エネルギーを活用する技術のショールームだ。太陽熱給湯システムはもちろん、ダイレクトゲイン、セルロース断熱、井戸水冷房、、中でも私がO邸に訪れるきっかけとなった日本の住宅で最大の「トロンブ壁」はこの家のシンボル的な存在だ。
「トロンブ壁」とは、コンクリートなどの蓄熱量が大きい壁に、日中の太陽光を当てて熱を蓄え、夕方日が落ちて涼しくなったところで外気側に蓋をして、蓄えた熱を部屋の中に放出するシステムである。コンクリート壁は程よい暖かさで放熱を続けるため、気流のないまろやかな温熱環境がつくられる。
既存のトロンブ壁は、全体のトーンに合わせた白い壁で、自身の存在を主張せず機能だけを発揮していた。私のように、この壁がメインでここを訪れる見学者は少なくないのに、あまりに慎ましやかな状況だった。
「白い壁に飽きた」というのも確かに一つの理由だろうが、「シンボルをシンボルらしく」という裏に隠れた思いを感じ、この壁を中心にほかの部分のデザインを決めていくという逆説的な方法で改修提案をまとめた。
もっとも重要なのは、「赤い壁」をどう創るか。単色で平滑に塗ることは、はじめからあきらめていた。この壁はコンクリート壁に木造壁が載り、継ぎ目なく仕上げている。コンクリート部分はモルタルでならして塗装。木造部分はボードの上に塗装である。素材が違う材料の間には当然亀裂が入る。また面としても不陸の具合がまったく違う。「単色はやめましょう」と話をしたところ、奥様からは「ポンペイの壁画の赤がすき」。旦那様からは「おいらん(和)の赤」というご要望。奥様の要望をベースに旦那様の意見を融合するアイデアを練った。
とにかく、この下地を活かすなら年代ものの壁画のイメージはしっくり来る。そこで骨材を入れた塗料やパテで下地のでこぼこを強調し、深みのある色を作るために、何層にも色を重ねることにした。完成当初もさることながら、細かなひびや汚れによる経年変化が味を出していくだろう。
また、巾7.7m、高さ5.4mの吹抜けの壁に食堂部分の壁が連続する逆L型の画面である。すべてを同じ色調にすると単調になると思い、吹抜けの一番高い部分を明るく、食堂の奥は渋いオレンジというように、画面に流れを作るように心がけた。さらに、施主の楽しみが増えるように、庭に生えている草花や、現場作業中に出てきたヤモリなどを隠れキャラとして忍ばせている。
内装施工者として、ディズニーランドをはじめ、多くの商業ビルなどで、「エイジング」や「騙し絵」を専門に行っている職人集団を東京から召致することを提案当初から説明し了解を得ていたため、クオリティーの高いものができた。(藤江 創)
 

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